無料官脳小説「パリの濡れるメッセージ」


私は、濡れる。

少し衣服が躰をかすめても、濡れる。
バスの振動でも、濡れる。
少し躰の中心に意識を遣るだけで、濡れる。

そして、彼からのメッセージを告げる受信音だけで、激しく濡れる。

初めて関係を持った日。私は彼の家に呼ばれた。フランス語がまだまだ拙かったあの頃、大勢が集まるパーティーだとすっかり勘違いして向かった彼の豪華な高級アパルトマン。
着いてみれば私一人で、持ってきた手土産のホールケーキが急に恥ずかしくなった。

前から好意は持っていた。いや、むしろあの目の虜になっていた。彼を想って自分の指に溺れた夜も一度や二度ではない。でも彼には婚約者がおり、言葉のコミュニケーションもうまく取れない私は、そうなることなんて単なる妄想に過ぎなかった。

しかし、彼は私一人のために手料理を振る舞い、美味しいワインといい音楽と。お互いがキッチンやお手洗いに立つ度、戻ってきた二人のソファーに座る距離は縮まった。
この頃にはさすがに私もそうなるだろうことは予想がついていた。けれど『そうなる瞬間』というのは高まるもので、もう夢中だった。
初めて、眠れぬ夜を経験した、冬のパリだった。

彼からのメッセージは、熱い。
けれどそれは愛を囁くものではなく、私の躰を欲する欲望のメッセージ。

彼と関係を持ってから、私のフランス語力は格段に伸びた。しかし増えていく語彙は日常生活には程遠いものだけれど。『濡れそぼる』『咥え込む』『いきり立つ』…。こんな単語をどこで使おうか?

彼はいつも私を文字で責め続ける。1日に40回ほどの着信音を聞く日だってある。
次の逢瀬までの、心と躰の準備。妄想を掻き立てる卑猥な言葉。
私のどの部分をどう嬲ろうか、濡れ具合は、色は、滴る蜜の味はどうだろうか、今から滴らせている自分の高ぶりを私はどう扱うのか…私は頰を紅潮させ息を荒げて何度も読み返す。そして紫色のカーテンを閉め、自分の指に溺れていく。

SかMか、といえば彼は絶対にSだし、私はMだと思う。しかし私たちは痛みを好まないので、力で押さえつける隷属関係ではない。拘束したり鞭打つこともない。彼は私が自ら望んでエロスの塊になるのが好きなのだ。脚を開き股間に指を添え、滴る入り口にバイブをくわえ込み、自らうねり、その姿を鏡で見せられてさらによがり狂う私を見るのが、好きなのだ。

彼に2回目に抱かれた時、おもちゃはすでに用意されていた。
初めて日本人以外と関係を持った私は、欧米人とはこういうものなんだろうと思っていたし、元から抵抗もなかったので、おもちゃプレイにもすんなりと応じた。ただ増え続けるその種類と数には驚いたけれど。

彼は、小綺麗な色のバイブよりも、リアルな色と形のディルドを好む。それも大きめの。
極太のものを私に少しずつねじ込み、それを私の手で突き動かさせる。同時にもう片方の手で私は自らクリトリスをこねる。大きく紅く肥大したそれは、私を何度もイかせる魔法のスイッチだ。上下に、円を描くように、強弱と緩急をつけて。するとクリトリス自体が意志を持った生き物かのように私を彼方へと導く。
それを見ながら自分の長く逞しい股間を擦りあげる。彼の好きなプレイだ。

そのあとディルドを引き抜いてドロドロの膣へ自分のモノを押し込むこともあれば、ディルドをそのままに、自分はアナルへ侵入することもある。最初は不慣れだった私も、力の抜き加減や事前の準備などがわかってきて、今ではアナルでも快感を覚える。膣にもアナルにも両方入れているあのみちみちとした充足感と、あの自分が壊れてしまいそうな感覚がなんとも言えずに好きだ。

彼のセックスは長い。3時間4時間なんて普通だ。その間彼はずっとイかない。おもちゃを使ったり、何度も何度もイって疲れ切っている私と休憩したり、そしてまた私をいたぶったり…の繰り返しだ。確かに若くはないけれど、いけないわけではなく、射精自体を重要視していないらしい。二人でエロティックな時間を過ごすことが最重要なので、射精に至らないまま眠ってしまうこともある。実際、私をイかせるためだけに昼間数時間やってきて、自らは脱ぎもしないときだってあった。男性本位のセックスが氾濫する中で、こんな人がいるなんて。こんな快楽を与えてくれ、それを悦びとする人がいるなんて。

彼とのセックスに飽きる日が来ることはあるんだろうか?もうしたくないと思う日が?

お互い悪条件の相手で、他に探せばセフレは見つかるのに、私たちはお互いの躰に溺れきっている。躰に、そしてあの濃厚なひと時に。
きっとこの先どんな愛しい恋人が出来ようとも、彼とのこのセックスよりも私を魅了するものはない気さえする。

そして私は今日もあの着信音に、濃厚な蜜を滴らせ続けている。


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