女性向け官能小説「光る絶望の底で逢う」(エッチ小説)

 杏花梨が目を開けると、そこは自分の部屋のはずなのに何故か違和感があった。
 いつも寝ているベッドから体を起こして、あたりを見回す。カーテンが引かれた1LDKの室内に眩しいくらいのシーリングライトが光り、さっきまで目を閉じていた瞳孔が開いてクラクラする。
「でも……どうして、私……。あれ……?」
 違和感はある。なぜなら、自分の感覚ではさっきまではここではない場所にいたのだから。どこに……? 目眩に似た感覚に目を伏せて記憶を整理する。そうだ。私は、夕方友人に呼び出されて駅前のファストフード店にいたのだ。
 高校時代の友人で、メールでやりとりだけは続けていた友人の光流にだ。断片的な記憶が道になる。その時、
「──あれ? もう起きちゃったの?」
 自分の部屋で自分以外の声にハッとする。声がした方向を見やると、バスルームから杏花梨が普段使っているバスタオルを裸の下半身に巻いた男が出てきた。男は濡れて茶髪のショートが黒く見えるほど。
「光流……?」
 ぼそりと、杏花梨が呟く。どうしてあなたがここにいるの? と。フローリングには光流の服が落ちている。夕方、ファストフード店で見たパーカーにジーンズそれに……。
 フローリングをカラフルに変える服のなかに、さっきまで自分が着ていた洋服もあった。シフォンのワンピースが萎れた花のように落ちている。
「杏花梨ちゃんもシャワー浴びる? ……無理か。起きたてだし転んでもいけないしね」
 現実に引き戻される光流の声に気付くと、杏花梨は自分が裸であることに気づいた。
「……! ……なに、これ……」
 吐きそうなほどの恐怖が喉をせりあがる。
「安心して。大丈夫だよ。まだ、汚してないから、さ」
「来ないで……!」
 冷蔵庫からミネラルウォーターを勝手に飲んでいた光流が杏花梨のベッドに腰掛ける。二人分の重みにスプリングが軋む。
 ベッドカバーを引き寄せて、露わになっている二つの果実を隠そうとする杏花梨の手を光流はねじ伏せる。
「どうして隠そうとするの? すっごく綺麗だよ。杏花梨ちゃん……」
「……っ」
「あれ、警戒してる? それともまだ分からない? 待ち合わせしたファストフードで、突然杏花梨ちゃんが寝だしたから、僕はここまで連れてきただけだよ」
 何それ。杏花梨は動揺を隠せずに、おずおずと見慣れたはずの友人の顔を見上げる。光流はさっきから笑っている。彼はいつも自分の前では笑っていた。
「た……食べ物か飲み物に何か入れた……? 注文したのはそっちだった」
「酷いなあ。僕は杏花梨ちゃんに疑われてる?」
「答えて!」
 光流の顔が笑ったまま、残酷そうに口端を歪める。
 高校時代、光流とはいい友人関係を築けていたはずだ。中性的な顔立ちで男子より女子の輪になぜか入っていた彼とは、異性でありながらそれを感じさせない友情を感じていた。彼も、きっとそうなはずだ。なのに……。恨まれるようなことはない。
 今日だって、メールで光流から相談があると持ちかけられて、夕方でも人通りの多い駅前の店を指定した。警戒してのことではない。光流は、半年前のメールで突然彼女がいると告げてきたから、その彼女に誤解されないよう気を遣ってのことだ。
「ねえ光流、彼女は……? こんなこと許せることじゃ……」
「まだ分かんないの。杏花梨ちゃん」
 光流の本来なら高めの声が一気に低くなる。それは獣のような低音で。
「君のことを好きなんだよ。杏花梨ちゃん。それ以外は全部嘘でも、これは本当だから」
「……っ」
「ずっと、ずっとずっと……好きでどうしようもなくて、僕と離れてから杏花梨ちゃんが男に汚されてるのかと考えると不安で不安で不安でね──眠れなくて、医者がいうにはストレスだっていうから……僕は杏花梨ちゃんをもう我慢してはいけないんだ……っ」
 グッと、光流は杏花梨の首筋に歯を立てる。
「……っう……ぁ、光流……」
「杏花梨ちゃんは毒。僕にとっての憎い毒だよ。でも、僕が生きるためには必要だったんだよ」
「……ゃ……!」
 抵抗する両手は、胸板の間で固まっている。光流はヌメリと舌先で杏花梨の鎖骨を味わっている。
「……っは、僕が杏花梨ちゃんを……っ一番最初に汚せば、このイライラも少しはおさまるよね……?」
「光流……っ。や、やめ……」
「うるさい。うるさいよ、杏花梨ちゃん」
 唯一抵抗できた言葉を封じようと、光流の唇が重なってくる。
「……ん!」
 嫌いなわけではない。けれど、それは友人だから。酸素が欲しくて、杏花梨の思考がぐるぐる傾き始める。
「っはぁ……はぁ……」
 興奮の色を隠せない光流の瞳に自分が移る。困惑顔で、虚しく前を見ている。
「ひ、光流……」
「……杏花梨ちゃ……ん……」
 お互い裸のままで、光流は男にしては細い指を杏花梨の乳房に這わせる。下から持ち上げるようにしてこねくり回す。そして下の茂みに手を伸ばし、
「ね……? 杏花梨ちゃんのここ、可愛い……」
 光流は慈しむように言って、舌先でなぞり始める。
「…………っ」
「気持ちいい……? それじゃあ次は僕の番、だよ?」
 とっくに外れていた光流の下半身を隠していたバスタオル。目を背ける杏花梨の顔を挟んで、
「……だめ。杏花梨ちゃんも、見てて?」
 光流の肉棒が太腿の間を抜けて杏花梨の割れ目に潜っていく。
「ねえ……? どう……? 僕に汚されて絶望してる? それとも…………」
「……っぁ……ん」
 唇を噛み締めて声を潜める杏花梨に、光流は嬉しそうな顔をして見下ろす。
「……うん。……我慢して? 僕がこれまで我慢してきた分、君には同じように我慢してもらうから、さ──?」

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