官能小説「僕とセフレ」

「それでね、あのハゲが喧嘩売ってきたわけ」
香水の匂いから逃げるように奈央はスーツを脱ぎ捨て、パンストを丸め、挙句パンツとブラジャーを床に落とした。
相変わらず彼女には相変わらずロマンもムードもない。
手持ち無沙汰にコーヒーを飲んでいた僕は奈央が落とした服を律儀に拾い集め、洗面所に置かれたカゴにほおり投げた。
「ちょっとおかーさん、きいてる?」
「せめてお父さんって呼ばない?」
つまらないジョークに肩をすくめてリビングに戻れば、ソファに座った奈央がん、と両手を広げてくる。
人並み以上に大きな胸が果実のように揺れて僕を誘う。
片膝をつき正面から奈央を抱きしめる。ぎしりとソファが悲鳴をあげた。
「とにかくね、腹が立ったのよ」
「しってる」
「見てないくせに」
「君はそれ以外の要件で僕を呼ばないだろ」
ぱちりとマスカラでごてごてになったまつげが瞬いて、奈央はカラスみたいに笑いながら唇をくっつけてきた。
奈央は彼氏がいるくせに会社や友人関係で腹が立ったとき僕を呼びつける。
彼女はなぜかわからないけど腹立つことがあると、僕とセックスがしたくなるらしい。
僕たちが初めてしたセックスが喧嘩をしながらだったからに違いない。絶対そうだ!と彼女は言って聞かないけど、僕にはそういった変わった性癖がないのでよくわからない。
それでも、だ。
奈央のはじめてを奪ってしまったのは僕なのだから、呼び出されたら応えるくらいの甲斐性は見せるべきだろう。
ハリのある肌を撫でながら、唇を味わう。リップ音を立てて上唇を甘く噛めば、隠れていた舌が僕の唇を舐めた。小さくかわいい舌が逃げる前にちゅっと吸ってやる。それから敏感な上あごに舌を這わせれば、奈央は熱く吐息を漏らす。
右手で耳を愛撫して、左手では腰を撫でる。
気分が乗ってきたのだろう。太ももが切なげに僕の足を挟んだ。
「ねぇ、じれったい」
まだまだくっつきたがる僕の口を奈央の手が抑える。
奈央の指は細く長い。学生時代はピアノに打ち込んでいた、とても綺麗な手だ。
たまらず指の間に舌を這わせれば、奈央の体は魚のように跳ねた。
「んっ」
腰を引こうとする奈央を抱きかえて、胸とは対照的に控えめな尻を揉みしだく。
ぴちゃぴちゃと水音を響かせて執拗に手を味わっていると、奈央の手が僕のジーンズにかかった。
じじじとジッパーが音を立てたかと思えば、ジーンズはパンツと一緒に引き摺り下ろされた。
「奈央にはほんと情緒がない。僕は脱がせるところを楽しみたいのに」
中途半端に脱げた二つが気持ち悪くて、立ち上がって足を抜く。ついでにTシャツを脱げば、奈央は長い髪を揺らしてフンと鼻を鳴らした。
「だって汚れるじゃん。ていうか脱がすところにそんなこだわらないでよ。あんたそういうところ以外では雰囲気盛り上げられないの?」
「まさか」
仕切り直しと言わんばかりに奈央を押し倒して、キスしながら胸を揉みしだく。
「あっ、んっ!」
すこし茶色くなった乳首の感度は良くて、胸を触っている間にもピンと上を向く。
首筋から順番に唇を落とし、胸の谷間に顔をうずめる。それから早く触って欲しいとねだる乳首をつまんでやれば奈央の体が大きく跳ねた。
「んんっ!」 
「相変わらずここ好きだね」
「はっ、ん、うるさ、い」
きゅっ、きゅっと強弱をつけて刺激してやれば言葉とは裏腹に肌がほんのりと赤く色づいていく。
快楽を拾うたびこうして肌が色づいていくのはたまらないものがある。
胸に吸い付いて、いきり勃ったペニスを奈央の足に擦り付ける。
「や、ぁ、ちょ、犬か」
喜んでいるのか、笑っているのかよくわからない声を聞きながら秘部へ指を伸ばす。
手入れの行き届いたそこに到達するのは容易く、中指がぬるりとしたものを捉えた。
「犬にされて喜んでる」
「ばっ、んぁ」
お喋りな口が動き出す前に中指と親指でクリトリスをきゅっとつまんでやる。
それから人差し指で下からクリトリスを弾いてやれば面白いように奈央は鳴いた。
「んっ、は、ぁ」
「気持ちいい?」
「うん、いい。すごい好き」
「そう」
ひとつ頷いて、僕は奈央の中に指を入れる。
二本目までは余裕だったけど、三本目を入れるにはまだ狭い。むわりと女の匂いを発するそこに顔をうずめ、僕は奈央のクリトリスを舌で舐めた。
「ひっ、あぁ!」
途端に愛液がぐじゅりと出てきて、手のひらを伝う。
「あっ、あっ、あっ、だめ、やだ」
口を離さないまま指を出し入れすると、奈央は足をピクピクと痙攣させながら中を締め付けてくる。
「だめぇ、も、入れて」
三本の指が自由に動くことを確認し、僕は一度体を起こした。
ジーンズのポケットからゴムを取り出せば、奈央が起き上がる。
「つけたげる」
「ん」
ゴミを床に投げ捨て、くるくると手早くゴムが装着される。
「えい」
「うわっ!?」
最後にぐりっと僕の亀頭を親指で押し、奈央はソファに横たわり大きくそこを手で開いた。
「早くくださーい」
「言われなくても」
奈央の足を肩にかけ、ペニスを沈めていく。膣の熱さにめまいがした。
「ん、あっ、はぁっ!」
歓喜の声を上げた奈央が僕へと手を伸ばす。手を取り、溶けてしまいそうな腰を前後させる。
奈央のいいところにぶつかるたび上がる嬌声が僕の理性を剥ぎ取って、腰の律動は少しずつ奈央に快楽を与えるためではなくて、自分の快楽を得るための動きへと変わる。
「あっ、あん、いい、そこっ!」
愛液とゴムのローションが水音を立て、乾いた音が部屋を満たす。
荒くなった息のままぐりっと中をえぐれば、喉の奥からか細い声を出して奈央がイく。
途端に中が締め付けられて、荒い息のまま僕は奈央にキスをした。
同時に薄い膜の中に精液が広がっていく。
ゴムの中に注ぎ込まれた精液は、狭い部屋で寂しくセックスする僕たちにすこし似ていた。

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